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日曜 美術館 ヌード

  • Writer: Rolf Reeves
    Rolf Reeves
  • Oct 30, 2023
  • 12 min read

日曜美術館「重要文化財の秘密 知られざる日本近代美術史」(2023.4.2)

生々しく赤い身、鈍く光る皮、毛羽だった縄といった物の質感を見事に描き分けているこの作品は、後に続く洋画家たちにも影響を与えています。 大谷さんが例に挙げたのは、岸田劉生の《麗子微笑》1921(1971年指定)。 「麗子ちゃんを見るようにこの絵を見ていただくと、またちょっと違って見えてくるかな、という気がします」 とのことですが…? 《麗子微笑》の展示期間(4月4日~5月14日)中に行く機会があれば、見比べてみようと思います。

青木繁《わだつみのいろこの宮》1907 (1969年指定) 通期展示

山幸彦が海神の娘である豊玉姫に出会う、古事記の物語を題材にした神話画です。 作者である青木繁(1882-1911)の作品ではこの3年前に描かれた《海の幸》も重要文化財に指定されています(1967年指定。今回は展示なし)。 ところが発表された当時、これらの絵はどちらも高い評価を得られなかったそうです。

裸の漁師たちが巨大な魚を担いで歩く《海の幸》は斬新な構想や色使いが評価される一方で、荒々しいタッチが未完成作品のように思われて批判を受けました。 このために青木は《わだつみのいろこの宮》を描く時、構図や色の研究を重ね(実際に海に潜ったこともあると言います)、何枚もの下絵を描いた上で制作しています。 青木にしてみれば会心の作でしたが、東京勧業博覧会での評価は三等の一番下。 あまりにも心外な結果に、青木は新聞に投書して「大家は退化なり」などと悪口を書いたそうです。

萬鉄五郎《裸体美人》1912 (2000年指定) 通期展示

青木繁の作品に影響を受けたひとりに、萬鉄五郎(1885-1927)がいます。 青木が死んだ翌年に描かれたこの作品は、当時パリで話題になったフォービスム(野獣派)をいち早く導入したもの。 赤い布を腰に巻いた女性が草の上に寝そべる様子を描いています。

一見すると何も考えず雑に描いたように見えますが、この作品は美術学校の卒業制作です。 萬は《裸体美人》を描く上で何枚もの下絵を描いており(完成作と比べて白黒の下絵の方が丁寧に見えました)、荒っぽい表現は大谷さん曰く「計算された野蛮さ」なんだとか。 草の上に寝転んだ裸の女性・赤い布といったモチーフは師匠である黒田清輝の《野辺》(1907。展示なし)と共通していることから、オマージュ作品と考えられます。

その他の作品

  1. 浅井忠《収穫》1890(指定1967年) 通期

  2. 岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》1915(指定1971) 通期

  3. 黒田清輝《湖畔》1897(指定1999年) 4月11日~5月14日

重要文化財に指定された彫刻・工芸

高村光雲《老猿》1893(1999年指定) 通期展示

栃の大木から彫り起こした巨大な猿は、険しい表情で空を睨み、左手に捉え損ねた鷲の羽を握りしめています。 黒い瞳は鉱物を埋め込んだもので、仏像にも使われる技法。 高村光雲(1852-1934)は11歳から仏師の弟子として修行を積んで身につけた伝統の技に西洋の写実を取り入れた、日本の彫刻の歴史を語る上で重要な大家のひとりです。

この作品は1893年のシカゴ万博に出品するため国の依頼で制作されたもので、1967年には明治時代の彫刻として初の重要文化財の候補になります。 ところが、その年に指定を受けたのはパリでロダンに学び西洋の近代彫刻の基本を身につけた荻原守衛(1879−1910)の《女》(1910。今回は展示なし)でした。 《老猿》の重要文化財指定はさらに30年以上後になります。

大谷さんは《老猿》が指定を逃した最大の理由について、西洋の近代彫刻の概念から外れていた為だと言います。 光雲の作品は日本の床の間などを飾ってきた「置物」の伝統の上に位置するもので、「美術」と「工芸」の中間にある曖昧な存在と考えられたことが「彫刻」としての評価に影響しました。 なんだかよく分からない理由ですが、これには敗戦をへた日本が国際的な文化のテーブルに着くためには伝統を重視するべきか、それとも西洋的スタンダードを重視するべきか、と悩んだ当時の世相が影響しています。

鈴木長吉《十二の鷹》1893(2019年指定) 通期展示

工芸は、明治以降の美術でもっとも評価が遅れた分野でした。 天才金工家・鈴木長吉(1848-1919)の《十二の鷹》も、工芸に対する評価の揺れに翻弄された作品です。 一羽一羽、色もポーズも異なる金属製の鷹12羽を几帳にとまらせたこの作品は、《老猿》と同じくシカゴ万博に出品されて最も高い評価を受けましたが、重要文化財に指定されたのはやはりシカゴ万博に出品された鈴木の作品である《鷲置物》(1892。2001年指定)の方が先でした。

この理由は《鷲置物》の方が1年早く制作されたから…ではなく、《十二の鷹》は鋳造・彫金・象嵌・鍍金などさまざまな技術を持つ24人の職人たちが協力して作り上げたものだからです。 鈴木は自分も制作にたずさわる一方、職人たちを取りまとめる監督でもありました。 一方《鷲置物》は鈴木がひとりで制作した作品で、アートは個人が作るものであるという近代西洋の考え方がもとになっています。

東京国立近代美術館70周年記念特別展「重要文化財の秘密」(東京国立近代美術館)

2023年3月17日(金)~5月14日(日) 9時30分~17時 (金・土曜日は20時まで) ※入場は閉館の30分前まで

一般 1,800円 大学生 1,200円 高校生 700円 中学生以下 無料 障害者手帳の提示で本人および付添者1名無料

NHK「日曜美術館 アートシーン」(放送・再放送・見逃し配信)

<NHK 日曜美術館 アートシーン> 本放送:NHKEテレ毎週日曜日午前9:45~午前10:00 (15分) 再放送:NHKEテレ翌週の日曜日午後8:45~午後9:00 (15分) ※2022年4月から本放送日の翌週日曜日に再放送されることになりました。 見逃し配信:NHK+(放送日の1週間後の日曜日午前9:59まで) ※見逃し再生は、NHKプラスに登録することで、WEBブラウザーやスマートフォンアプリを利用して無料で観ることができます。

3.「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」(京都:京都国立近代美術館、7/19-9/24) 終了 ⇒ (岐阜:岐阜県美術館、12/19-2024/2/18) ⇒ (岡山:岡山県立美術館、2024/2/27-4/7) ⇒ (東京:菊池寛実記念 智美術館、2024/4/20-9/1)

4.「20世紀美術の冒険者たち ―名作でたどる日本と西洋のアート」(熊本:熊本県立美術館、7/22-9/18) 終了 ⇒(香川:高松市美術館、9/30-11/19)

2.「ドイツ・ミュンヘン MUCA展 ~BanksyからKAWSまで~」(大分:大分市美術館、7/22-10/9) 終了 ⇒(京都:京都市京セラ美術館、10/20-2024/1/8)

3.「少女たち 星野画廊コレクションより」(京都:京都文化博物館、7/15-9/10) 終了 ⇒(福島:福島県立美術館、9/23-11/12)⇒(新潟:新潟市美術館、11/18-2024/1/21)⇒ (高知:高知県立美術館、2024/7/6-9/22) ⇒ (広島:呉市立美術館、2024/9/28-11/10) ⇒ (東京:三鷹市美術ギャラリー、2024/12/14-2025/3/2)

4.「ホーム・スイート・ホーム」(大阪:国立国際美術館、6/24-9/10) 終了 ⇒ (香川:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2024/10/12-2025/1/13)

3.「住友コレクション名品選 フランスと日本近代洋画」(大分:大分県立美術館、7/1-8/31) 終了 ⇒(島根:島根県立美術館、9/8-11/6)

2.「new born 荒井良二 いつも しらないところへ たびするきぶんだった」(神奈川:横須賀美術館、7/1-9/3) 終了 ⇒(千葉:千葉市美術館、10/4-12/17)⇒ (愛知:刈谷市美術館、2024/9/7-6/16) ⇒ (福島:いわき市立美術館、2024/9/7-10/20)

2.「ディーン・ボーエン展 オーストラリアの大地と空とそこに生きる私たち」(群馬:群馬県立近代美術館、7/8-8/27) 終了 ⇒(徳島:徳島県立近代美術館、9/16-12/10)⇒ 2025年6月末まで国内巡回予定

3.「生誕140年 ユトリロ展〈白の時代〉を中心に」(新潟:新潟市新津美術館、7/1-8/27) 終了 ⇒(神奈川:横浜髙島屋、9/13-10/2) 終了 ⇒(京都:美術館「えき」KYOTO、11/3-12/25)

2.「フィンランド・グラスアート 輝きと彩りのモダンデザイン」(東:東京都庭園美術館、6/24-9/3) 終了 ⇒(山口:山口県立萩美術館・浦上記念館、9/16-12/3)⇒ (岐阜:岐阜県現代陶芸美術館、12/16-2024/3/3) ⇒ (兵庫:兵庫陶芸美術館、2024/3/16-5/26)

2.「ベルギーと日本 光をえがき、命をかたどる」(東京:目黒区美術館、4/29-6/18) 終了 ⇒(岡山:高梁市成羽美術館、7/8-8/27) 終了 ⇒(新潟:新潟県立近代美術館、9/16-11/12)

5.「ブルターニュの光と風」(東京:SOMPO美術館、3/25-6/11) 終了 ⇒(福島:福島県立美術館、7/1-8/27) 終了 ⇒(静岡:静岡市美術館、9/5-10/22) 終了 ⇒ (愛知:豊橋市美術博物館、2024/3/1-4/7)

1.「芸術家たちの南仏」(千葉:DIC川村記念美術館、3/11-6/18) 終了 ⇒(栃木:宇都宮美術館、7/2-9/24) 終了 ⇒(広島:ふくやま美術館、10/7-12/10)

4.「みちのく いとしい仏たち」(岩手:岩手県立美術館、4/8-5/21) 終了 ⇒(京都:龍谷大学 龍谷ミュージアム、9/16-11/19)⇒ (東京:東京ステーションギャラリー、12/2-2024/2/12)

3.「ヨハネ・パウロ2世美術館展」(福島:郡山市立美術館、1/28-3/26) 終了 ⇒(宮崎:宮崎県立美術館、7/15-8/27) 終了 ⇒(愛媛:愛媛県美術館、9/23-11/26)

3.「巡りゆく 遠藤彰子展」(長野:上田市立美術館、2022/12/17-2023/2/12) 終了 ⇒(山形:山形美術館、7/4-8/27) 終了 ⇒(北海道:釧路市立美術館、9/5-10/22) 終了 ⇒ (北海道:札幌芸術の森美術館、2024/4/5-6/16)

3.「未来へつなぐ陶芸 ―伝統工芸のチカラ 展」(東京:パナソニック汐留美術館、1/15-3/21) 終了 ⇒(石川:国立工芸館、4/5-6/19) 終了 ⇒(山口:山口県立萩美術館・浦上記念館、7/2-8/28) 終了 ⇒(静岡:MOA美術館、12/17-2023/1/23) 終了 ⇒(愛知:愛知県陶磁美術館、2023/4/15-6/18) 終了 ⇒(茨城:茨城県陶芸美術館、2023/7/8-8/27) 終了 ⇒(兵庫:兵庫陶芸美術館、2023/9/9-11/25)

日曜美術館「孤高の 'まなざし' エゴン・シーレ」(2023.3.5)

シーレは何を思って性器まで露出した自画像を描いたのでしょうか。 レオポルト美術館館長のハンス=ペーター・ウィップリンガーさんは、 シーレにとって性器は「儚さ」「脆さ」の象徴であり、 裸になって自身の弱い一面をさらけ出すことで 「人間とは何なのかをシーレは探し始めたのです」と語ります。 シーレが14歳の時、父アドルフ・シーレが梅毒による精神錯乱の末に亡くなっており、 思春期だったシーレは性行為への罪悪感と死に対する恐れを持つようになりました。 シーレの作品に見られる生と死が交じり合った世界観の根源には この出来事が影響していると言われています。

《抒情詩人》と同時期に描かれた《自分を見つめる人Ⅱ(死と男)》(1911)は 画面中央で自分を抱きしめるようなポーズで目を瞑るシーレの背後に 亡霊のような白い人影が立っていますが、 この人影もシーレ自身の姿をしているように見えます。 シーレ研究家の水沢勉さんによると、 生と死がひとつになった世界観はシーレの他の作品にも表れている特性のひとつ。 森山さんは自我を探求する中で錯綜しているような心の動きを感じ、 ただのグロテスクをこえて人類の大命題である「生と死」について 絵画から訴える力を感じました。

シーレは22歳のころ、ウィーン郊外の村ノイレングバッハでアトリエを借り、 近所の少女等をモデルに制作していましたが、 そこに13歳の家出少女が転がり込んだことがきっかけで逮捕され、 アトリエにあった少女たちのヌードの絵が「わいせつ」とされて 3日間の禁固刑に処されています。 解放直後に描かれた《ほおずきの実のある自画像》(1912)は 黒い服を着たバストアップの自画像で、見開いた目の動きが想像できるほど表情豊かです。

シーレのどこに惹かれるのか?

森山さんは、《ほおずきの実のある自画像》を前に 「文脈とか全部ぬきにしてこれが何が良いのかって語りたいけど難しいですね」 とコメントしています。 「28歳で亡くなった天才が描いた」という情報をぬきにして、 自分はこの絵を良いと思うのか、どう感じるのか。 シーレに限らずあらゆる作品に言えることかもしれません。 ただ、自我と向き合い、色遣い・形など絵を構成する全てで表現したエネルギーに 共感を覚えるのは確かなようです。

シーレの作品に込めたエネルギーに惹きつけられる人がいる一方で、 作品に現れた精神に共感を覚える人もいます。 シーレの絵をモチーフにした人形を170近く制作している ドールアーティストの宮崎郁子さんは、 阪神淡路大震災が発生した1995年にシーレの絵と出会い、 その中にある「身につまされる思い」が自分自身と重なって 気持ちを奮い立たせられたといいます。

宮崎さんが特に惹かれるシーレの絵は、 シーレがアカデミーをやめて貧困層の多い地域に安アトリエを借りていたころに 近所の子供たちを描いたドローイングです。 当時のウィーンは都市改造で近代的な市街地が整備される一方、 発展から取り残された地域が生まれていました。 ここに描かれているのも貧しい労働者の子どもたちや家のない孤児たちで、 無邪気な様子に描かれてはいるのですが、 その一方で荒れて節くれだった手や痩せた体もありのままに描写されています。

シーレは後に描く女性のヌード作品も痩せて骨の浮いた体を美化することなく描き、 社会の現実から目を背けてはいません。 シーレ自身は中流階級の出身で経済的な困窮は縁遠かったようですが、 それでも思うように生きられない窮屈さや孤独感から 弱い存在への共感を感じていたのではないかと宮崎さんは考えています。

シーレと戦争の影響

シーレが24歳の時に第1次世界大戦が始まり、 その翌年にはシーレも戦争に行くことになりました。 前線に送られることはなく、捕虜収容所などで働いていましたが、 それでも脱走しようとした兵士が銃で撃たれるところを目撃するなど 悲惨な光景を目にすることがあったようです。 すでに芸術家として認知されていたシーレは戦争の間も絵を描くことを許され、 捕虜、同僚、当時結婚したばかりだった妻エーディトといった身近な人物や 風景を描いています。

水沢さんによると、この戦争を境にシーレの絵画の技法に変化が見られ、 実物に寄せたリアルな描き方がメインになっていくようです。 たとえば開戦の年に描かれた《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街Ⅳ)》(1914)は 奥行きのない平面的なスタイルで建物が並ぶ様子が描かれているのに対して、 同じ風景を2年後に描いた作品では奥行きと立体感のある風景が描かれています。 戦争中の作品は画面を升目に区切って構図を決めた下書きが残っており、 これはルネサンス時代から使われている古典的な技のひとつ。 アカデミーで身につけた技法が、ここにきて解禁されたのでしょうか。

水沢さんは、シーレが非常事態の限られた条件の中で 自分ができる絵を完成させるためにこの手段をとったと考えています。 シーレの最高傑作ともいわれる《死と乙女》(1915)も、 死と生を象徴する男と女を描くためにしっかりと構図を決めた下絵が残っています。

写実的で穏やかな表現は人物画でも発揮され、 戦地で絵を描けるように配慮してくれた恩人でもある同僚がモデルの 《カール・グリュンヴァルトの肖像》(1917)や、 新婚の奥さんを描いた《縞模様の服を着たエディット・シーレ》(1915-1916)などは、 モデルの性格や画家との親密さまで伝わってくるように思えます。

戦争の中でそれまでのスタイルとは異なる新しい表現を模索していたシーレですが、 1917年にウィーンに転属し、芸術活動に打ち込めるようになった翌年、 スペイン風邪で命を落としてしまいます。 第一次世界大戦が終わる11日前、1918年10月31日のことでした。

シーレが「刺さる」理由

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ― ウィーンが生んだ若き天才」(東京都美術館)

シーレの作品50点のほかに クリムトなど同時代を代表する画家たちの作品約120点を展示して、 シーレと世紀末ウィーンのアートを振り返る大規模回顧展です。 残る展示期間はおよそ1か月、巡回展はありません。お急ぎください!

9時30分~17時30分 (入場は閉館の30分前まで) ※特別展開催中の金曜日は20時まで開館

一般 2,200円 大学生・専門学校生 1,300円 65歳以上 1,500円 平日限定ペア割 3,600円() 小学生・中学生・高校生・18歳以下 無料(日時指定予約が必要) ※大学生・専門学校生は、1月26日~2月9日に限り入場無料(日時指定予約が必要)

 
 
 

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