人間 失格 考察
- Rolf Reeves
- Oct 30, 2023
- 7 min read
冲方丁×又吉直樹の'人間失格'対談!脚本&小説の執筆裏話、太宰作品が愛される理由を語る
『火花』『劇場』に続く新刊『人間』がベストセラーとなっている又吉直樹と、SF、歴史もの、ミステリーと多彩なジャンルで活躍する人気作家・冲方丁との初めての対談が実現。又吉にとって初の長編小説となった『人間』は、太宰治の『人間失格』を聖書のように読み返す38歳の物書きが主人公。一方、冲方が脚本を担当した劇場アニメ『HUMAN LOST 人間失格』は、太宰治の『人間失格』を原案としたSFアクションとなっている。'人間失格'というキーワードで繋がった気鋭の作家二人が、太宰が70年以上前に描いた'生きづらさ'の正体に迫った。

太宰治の世界をアニメ化するという冒険
――太宰治の小説『人間失格』が、冲方さんが脚本を手掛けた『HUMAN LOST 人間失格』ではSFアクションに生まれ変わったことに驚きました。
冲方 僕の責任ではありませんよ(笑)。製作サイドからオファーされての企画だったんです。最初に企画を聞いた時は、僕も「なんて素っ頓狂な」と思いました。でも、実現したらおもしろいだろうなとも思ったんです。それで『人間失格』を読み返し、太宰の作品が現代にも通じるテーマがあるかどうか、また映像にしておもしろいかを考えたんです。そんなことを考えながら『人間失格』を読み直すと、人間関係が完璧なことに気づきました。主人公の葉蔵の周囲には悪友の堀木がいて、葉蔵の生き方に大きな影響を与えるヨシ子が現れ…。これは映像化できるんじゃないかと思えてきたんです。でも正直なところ、脚本を書いている間は「早く終わりたい」という一心でした(笑)。
又吉 そのくらい大変やったんですね。『HUMAN LOST 人間失格』というタイトルだけは、僕も以前から耳にしていたんです。それで完成した『HUMAN LOST 人間失格』を拝見して、驚きました。3回見直したんです。1回目は映像に圧倒され、それだけで充分に見応えがありました。2回目からはひとつずつの台詞をじっくりと楽しませてもらいました。僕も『人間失格』は繰り返し読んできた小説なので、通底する部分があるなぁと思いました。もちろん時代背景が違うので、解釈の仕方は違うんですが、『HUMAN LOST 人間失格』を観た後、もう一度『人間失格』を読み直したら、また違った読み方ができておもしろいやろうなと思いましたね。
冲方 タイトルの解釈から変えたんです。人間から失格するんではなくて、社会にいる人間が全員失格してしまった――という一種のディストピアの設定にしたんです。太宰は何度も自殺未遂を繰り返し、死の影が付きまとった人。死をどう描くかが課題だったんですが、いっそ死のない世界のほうが死というものが明確に浮かび上がるんじゃないかと。そこから不老不死化した未来社会という設定を思いつき、ようやく形が見えてきたんです。
――未来社会になっても葉藏は、やっぱり生きづらさを抱えているんですね。
冲方 正しく、よりよく生きようとはするものの、結局はうまくいかない。SNSやニュースから多大な影響を受けても、自分自身の所在場所は分からないでいる。現代の人間のほうが、『人間失格』が発表された戦後すぐよりも共感するんじゃないかと思います。
又吉 『人間失格』は葉蔵の手記という形で書かれているんで、葉蔵の言葉を信じるしかない。他者の目から見た葉蔵のことは分からない。でも冲方さんが書いた『HUMAN LOST 人間失格』だと、堀木の言葉も聞けるし、ヨシ子も発言する。それぞれの考え方が分かる。その視点を借りたうえで、『人間失格』にまた戻ると、新しい発見ができるように思いますね。
――又吉さんも『HUMAN LOST 人間失格』の企画に参加していたら、また違った作品になったんじゃないでしょうか。
又吉 いや~、僕が関わったら時間がかかり過ぎてダメでしょう(笑)。
冲方 『人間失格』をモチーフにした作品となれば、又吉さんも徹底的にこだわるでしょうからね。おそらく、又吉さんは又吉さんで、僕は僕でまったく別の物語を描くことになったんじゃないかな。
又吉 読んだ人がそれぞれ自由に想像の世界を広げていく。それが本来ある小説の楽しみ方ですからね。
元うつ病による「人間失格」考察
「シゲちゃんは、いったい、神様に何をおねだりしたいの?」 自分は、何気無さそうに話頭を転じました。 「シゲ子はね、シゲ子の本当のお父ちゃんがほしいの」 ぎょっとして、くらくら目まいしました。敵。自分がシゲ子の敵なのか、シゲ子が自分の敵なのか、とにかく、ここにも自分をおびやかすおそろしい大人がいたのだ、他人、不可解な他人、秘密だらけの他人、シゲ子の顔が、にわかにそのように見えて来ました。 シゲ子だけは、と思っていたのに、やはり、この者も、あの「不意に虻あぶを叩き殺す牛のしっぽ」を持っていたのでした。自分は、それ以来、シゲ子にさえおどおどしなければならなくなりました。
母子家庭の子供がそう無邪気に答えただけで、葉蔵はくらくら目眩していることから、父親に対しての相当な嫌悪感を抱いていたことが窺える。
父親を心の底から憎み、恐れている太宰だが、この偽善的父の存在の責任を父親一人に帰属していないことが予想できる。
自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜あかぬけのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る実利的な階段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めました。 また、自分は子供の頃、絵本で地下鉄道というものを見て、これもやはり、実利的な必要から案出せられたものではなく、地上の車に乗るよりは、地下の車に乗ったほうが風がわりで面白い遊びだから、とばかり思っていました。 自分は子供の頃から病弱で、よく寝込みましたが、寝ながら、敷布、枕のカヴァ、掛蒲団のカヴァを、つくづく、つまらない装飾だと思い、それが案外に実用品だった事を、二十歳ちかくになってわかって、人間のつましさに暗然とし、悲しい思いをしました。
しかし今になれば、この最初の部分で太宰が、現代社会の問題の根源が、畢竟'利便性の追及'に端を発することを示唆していることがわかる。
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